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概要

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今回、オックスフォード大学にある、国際的な社会的養護についての研究機関であるリーズセンターの研究員3名の方とお話しできる機会を頂き、その後、イギリスの心理療法的アプローチによる精神保健サービスの中心機関であるタビストック・ポートマンNHSで社会的養護の専門家研修に参加している日本人の臨床心理士の方にもお話を伺うことができた。まず、全員が口を揃えておっしゃっていたことは、まだ日本に乳児院が存在することの異常性であった。複数の職員で複数の子どもの世話をするという乳児院の環境では、子どもと養育者の間に安定した愛着関係は構築できず、この事実を実証的に証明した研究も複数あるとのことであった。愛着とは乳幼児期に子どもと養育者との間で形成される人間関係の型である。乳幼児期に安定した愛着を築くことができると、その後の人生に置いて、その他の人との人間関係も安定したものになると言われている。乳幼児期にどのような養育を受け、どのような愛着の型を作るかというのはとても大切なことである。ただし、愛着対象は実の母親でなくても良い。社会的養護の子どもたちが乳幼児期に誰かと安定した愛着を形成し、安定した型ができていれば、その後、母親や家族といったその他の人間関係も安定したものになるのである。法人内に乳児院がある施設で働いている私としては、乳児院では安定した愛着関係が形成されないという事実をすぐに受け入れることは困難であった。しかし、個人的な経験を振り返ると、感覚的な印象ではあるが、児童養護施設の子どもの中で誰かとしっかり関係を築くことのできている子どもは、確かに乳幼児期には家で生活し、児童養護施設に入所する年齢になってから入所してきた子どもたちである。だからと言って、乳児院では安定した愛着関係を絶対に形成できないとは考えていないし、乳幼児期に愛着が形成されなかったからといって、一生安定した人間関係が築けない訳でもない。しかし、一度形成された不安定な愛着を安定したものにするのには相当な努力や配慮が必要となる。つまり、子どもにとって、乳幼児期に家庭で育てられないこと、施設に入所していることの影響は多大なものであり、乳幼児期に適切な養育環境を子どもに提供してあげることの重要性をより考えるようになった。このような観点から、イギリスでは乳幼児は全員里親に預けられるべきであると考えられ、乳児院が完全に廃止されたというのである。このことには、今後の施設養護についてとても考えさせられた。イギリスにおいても、児童養護施設は専門的な治療を行う場所であり、この点はデンマークと共通している。1施設の児童数は多くても6人までとし、1人の児童に3人の職員が付く。施設で働く職員は、特別な研修が必要であり、専門的なスキルを身につけた者という認識である。イギリスは里親への研修やフォローがとてもしっかりしている。里親開始までに少なくとも1年以上の研修が必要で、乳幼児の里親に対しては特別な研修が実施される。里親は研修を受け、手当を与えられるプロとして扱われる一方、里親が疲弊してしまわないように里親へのレスパイトケアも充実している。子どもと里親のマッチングに対しても詳細なアセスメントが行われる。しかし、イギリスでは里親委託は民間企業が行うことも可能であり、独自の採用制度、研修制度を持ち、里親に支払われる手当もバラバラである。そのため、里親側が自身に合った里親機関を見つけることができるというメリットもあるが、レベルの低い機関も存在しており、利益を追求してしまう機関も出てきてい?45?